また、Tinderの話をさせてほしい。今度はホスト狂いの話だ。

歌舞伎町でデート、という話。

またTinderの話をする。懲りていない。

待ち合わせは新宿駅東口。彼女は時間通りに来た。

プロフィール写真通り、男子が好きそうな雰囲気の、ちょうどいい可愛さの子だった。「あ、普通にいいじゃん」と思いながら、どこに入るか考えた。大学生で金もなかったので、歌舞伎町のチェーン居酒屋に適当に入った。 ※某アーティストの女性ボーカルに似ていた。

最初の10分は、普通だった。

乾杯して、他愛もない話をした。大学の話、バイトの話、就活の話。

「あ、普通にいい人だな。」そう思っていた。

10分くらい経ったころ、彼女がふと言った。

「私、ホストにハマってるんだよね。」

そこから先は、推しの話だった。

推しは、3人いた。しかも店舗がそれぞれ違う。歌舞伎町だけじゃなく、他のエリアにも担当がいるらしかった。

それぞれのホストがいかにかっこいいか。先月いくら使ったか。どんな言葉をかけてもらったか。

そして、枕の話まで出てきた。

当時は今より、ホストは危険で近づくべきではない場所というイメージが強かった。だから最初は「そういう世界に本当にいる人がいるんだ…」と他人事のように聞いていた。

でも話を聞いているうちに、純粋に面白くなってきた。枕の話はエロかったし、知らない世界の話として普通に興味が湧いた。気づいたら相槌を打ちながら、めちゃくちゃ聞き入っていた。

完全に聞き役に徹していた。

変に口を挟まなかった。否定もしなかった。ただ楽しそうに聞いていた。途中、自分の話も少しした気がするが、ほとんどは彼女が話して、僕が聞く時間だった。

「まあ、何もないだろうな。」と思っていた。

正直に言う。

僕はどう見ても、ホスト顔ではない。

これほどホストにのめり込んでいる人間が、ホストでも何でもない大学生に興味を持つわけがない。今夜は話し相手として呼ばれただけだ。そう結論づけた。

お会計になったとき、「じゃあここで解散かな」と財布を出した。

気づいたら、ホテルにいた。

「じゃあここで解散かな」と財布を出したくせに、ホテルに誘ったのは僕だった。

何がそうさせたのかは、正直わからない。お会計を済ませて、外に出て、夜の歌舞伎町を並んで歩いていたら、気づいたら口から出ていた。

「ホテル、行こっか。」

自分でもびっくりした。さっきまで「何もないだろうな」と結論づけていた人間の発言とは思えない。

彼女は少し間を置いて、「うん」と言った。

歌舞伎町だから、そういうホテルには事欠かない。気づいたらエレベーターの中にいた。

ホストにお金を払っている人が、なぜか無料の大学生と。

翌朝、ぼんやりしながら考えた。

彼女は毎月、3人の担当ホストに相当な額を使っていた。枕込みで、それだけの対価を払っていた。

なのになぜか、ホスト顔でも何でもない大学生が隣にいる。

理由は、たぶんひとつだ。

ホストの話を、楽しく聞いた。変に口を挟まなかった。それだけだと思う。

話を聞いてもらえると、人は動く。顔でも、金でも、スペックでもなく。

ホスト顔じゃなくても、歌舞伎町では何かが起きる。

あの夜から学んだことがあるとすれば、それだけだ。

女性の話を楽しく聞く。変に口を挟まない。

シンプルすぎて拍子抜けするかもしれないけど、あのチェーン居酒屋で自然とやっていたことが、たぶん全部だった。

ホスト顔は必要なかった。歌舞伎町にいる必要も、たぶんなかった。


(しょうもない話は、まだ続く。)

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